シゴト地図

寺崎工業

優れた指導力のもと、
形として残る仕事を

心に響いたのは、会社の精神と祖父の言葉

 高岡市には、来年で創業100周年を迎える綜合建設会社がある。大正12年の創業以来、富山県内を中心に、建築・土木工事業を展開している『寺崎工業』だ。

 「大工をしていた祖父に、若い人にも教育が行き届いている会社だと、当社を勧められたことが入社のきっかけでした」
 そう話す嶋崎文也さんは、寺崎工業に入社して6年目の若手社員である。高校卒業後、石川県の専門学校で建築を学んでいたが、もともと地元へUターンする考えだったという。だが、富山県内の企業の求人が少なく、祖父に相談したところ、返ってきたのが前述の言葉だった。

 祖父の後押しを受け、同社の会社見学と説明会に足を運んだ嶋崎さんは、そこで「出入りの大工」という会社のスピリットを知る。出入りの大工とは、建てた後もお客さまとのお付き合いを大事にし続ける職人のこと。同社は、勝手口から出入りしてメンテナンスできるような間柄や、喜びも悲しみも分かち合えるような信頼関係の構築を大切にしている会社なのである。
 「出入りの大工という考え方が心に残りました。とてもいいなと思ったんです。また、実家の近くにある地元の会社だったことも大きいです」

 会社の姿勢が大きな決め手となり、同社の採用試験を受けた。合格後には、「改めて祖父の言葉を思い出したんです」と、他社の試験を受けることなく、春を迎えた。以来、実家から同社に通い続けている。

富山県出身。石川県の専門学校を卒業後、寺崎工業に就職した嶋崎文也さん。「今は、みんなで一つのものを作ることに一生懸命です」
富山県出身。石川県の専門学校を卒業後、寺崎工業に就職した嶋崎文也さん。「今は、みんなで一つのものを作ることに一生懸命です」

施工管理者として、少しずつ育成

 同社は、公共工事・民間工事を一括で請け負っている。その作業工程を考え、協力業者の方々を手配し、指示を出しながら、工期に沿って進めていく施工管理が、嶋崎さんの仕事だ。いわば、工事現場の指揮をとる役割である。
 「入社から早い段階で今の立場を任せられました。自分は人見知りだったので、最初は協力業者の方々に話しかけることが大変でしたが、皆さん優しくて。顔見知りになるにつれて、「こうしてほしい」と言えるようになっていきました」

 工事の際には、実際に現場で作業する職人の方々のための図面が必要だ。設計者の方が起こした設計図をもとに、より詳細に分かりやすい施工図を作成していく作業も、彼の仕事である。
 「職人さんの仕事内容を覚えた後に任せられたのが、施工図の作成です。基礎に鉄筋が納まるかどうか、建具の寸法や取り付け位置など、確認しながら描いています。図面通りにスムーズに進んでいる時に、仕事の面白さを感じますね」

 1つ前の現場からは職人の方々の手配を任せられるようになり、徐々に仕事の幅が広がっているという。段階を踏みながら、社員を少しずつ育てていく会社である。
 「今の工程にどれくらい日数がかかるのか確認して、次の工程の職人さんに連絡をしていますが、職人さんの予定を調整するのは難しいですね」
 かつて人見知りだった彼は今、職人の方々とのコミュニケーションを大切にしている。

 「安全に対して厳しいところが、当社のいいところ。自分では気づかないところを確認してもらえるので、安心して取り組めます」と嶋崎さんが言うように、同社では月に1回、安全パトロールを実施。担当者が現場を回って注意点などを確認している。同社の徹底した安全管理は、工事にまつわるすべての人の安心につながっている。

出入りの大工の姿勢は、社内にも

 嶋崎さんが、最初に携わった現場は、高岡市内の中学校の改築工事だった。そこでの仕事が、最も印象に残っているという。
 「今、振り返ると、これまでで一番規模の大きい現場でした。この時はまだ職人さんの仕事を見て覚えている段階でしたが、100人以上の前でマイクを持って朝礼の挨拶をしたんです。かなり緊張しましたね。工事が終わった後、外部足場を解体して外観全体が見えた時にはとても感動しました」

 中学校を皮切りに、工場や病院など、高岡市内には嶋崎さんが携わった建物がいくつもある。プライベートのときに車で通り過ぎることも多い。
 「友達に「ここで仕事しとったんや」と少し話をした時に、この仕事に就いてよかったなと思います。手がけたものが形として残るのは、やっぱり嬉しいですね」

 同社には、19〜70歳まで幅広い年齢層の社員が所属している。優れた指導力による離職率の低さも特徴だ。「人間関係がすごくいいんです。仕事ができて優しい方が多いので、余計な気を遣わずに話すことができます」と嶋崎さん。人との縁を大事にする「出入りの大工」の姿勢は、社外に対してだけでなく、社内全体に浸透し、気持ちの良い職場環境を生み出しているのだろう。

 「もっと実力を身につけて、いろんな仕事を任せてもらえるようになりたいです。そのためにも、経験をたくさん積んでいきたいですね。また、工事原価の管理もできるようになっていきたいです」
 この先100年も「出入りの大工」を貫いていく同社で、嶋崎さんはその精神とともに、自分の目標を追いかけていく。